初恋をもう一度。【完】
最初の音を鳴らしてしまえば、わたしはもう大丈夫だった。
すぐに、曲の世界に深く潜っていく。
わたしはそれほどまでに、ピアノを弾くことが好きなのだ。
指は驚くほど滑らかに動いた。
クラスの代表として伴奏をしていることも、もしかしたら向けられているかもしれないたくさんの視線も、何も気にならなかった。
もし一瞬でも気にしたら、きっと緊張で手が止まってしまっていただろう。
特にミスもなく、無事に終えた。
出来がどうだったかなんてわからない。
そもそも、ピアノを習ってもいない素人が伴奏したのだ、みんなが歌える程度に弾けただけで、よしとしよう。
とにもかくにも、身に余る重い荷が降りた。
思わずふうっと大きく溜め息が漏れる。
舞台から降りると、クラスメイト達がわたしに「お疲れさま」「ありがとう」と声をかけてくれた。
すごく嬉しかった。
嫌々引き受けた伴奏だったけれど、今は少しだけ、引き受けてよかったと思える。
鈴木くんも笑顔で「お疲れさま」をくれた。
鈴木くんの「お疲れさま」だけは、嬉しいよりもドキドキしてしまった。