初恋をもう一度。【完】

放課後、部活はなかったけれど、わたしは北校舎に向かった。

コンクールの時に演奏で使ったティンパニを、終わったあと適当に運び込んだままだったので、元の位置に片付けに来たのだ。

そもそも合唱のコンクールなのに、なぜ吹奏楽部も演奏するのだろうと疑問に思っていたけれど、どうやら今日は”音楽”コンクールだったらしい。

ティンパニを叩くのは好きだし、今回演奏した「アルヴァマー序曲」は、雄大で優雅なメロディの素敵な曲で、演奏していてすごく楽しかった。

なにより、ピアノの伴奏を終わらせてとてもスッキリしていたから、今日の吹奏楽の演奏はことのほか気持ちがよかった。

吹奏楽部員でクラスメイトでもある有希《ゆき》ちゃんが「あんな重いの1人で動かすの? 手伝おうか?」と言ってくれたけれど、「大丈夫だよ」と断った。

ティンパニには足にキャスターがついているから、平らな所を移動させるだけなら1人で充分だ。

準備室を占拠するかのように乱雑に置かれたティンパニ4台を、ひとつずつ所定の位置に戻した。

こんな作業は別に明日でもよかったけれど、わたしより先に他の人が準備室に入ったら邪魔になるだろうし、それで勝手に触られてしまうのも嫌だったのだ。


作業を終えて準備室から廊下に出た瞬間、

どくんっ

心臓が波打った。

ピアノの音が聴こえたからだ。

この音、絶対に鈴木くん!

わたしは一瞬の迷いもなく、閉めきられた第2音楽室のドアを横に引いた。
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