初恋をもう一度。【完】
第2音楽室のドアを開けて、

「え?」

わたしは思わず小さく声を洩らした。

誰もいないはずなのに、ピアノの音がしていたからだ。

誰かピアノ弾いてる……。

曲目は、プーランクの『エディット・ピアフを讃えて』だった。

わたしの大好きな曲の1つ。

それにしても、なんてやわらかくて深みのある音色なんだろう。

それに、この主旋律の頭の音を溜めて弾く感じ、なんてロマンチックな表現……まるでシャンソンを歌っているようだ。

本当に素敵。

誰が弾いているのかとても気になって、わたしはピアノにそっと近づいて行った。

グランドピアノの隙間から見えたのは、男子生徒の姿だった。

あれ、あの顔は……。
< 6 / 210 >

この作品をシェア

pagetop