初恋をもう一度。【完】
「……鈴木くん?」
話しかけるつもりなんてなかったのに、気づいたら口に出していた。
その途端、ピアノを弾いていた彼の手が止まった。
ピアノの音ももちろん止まって、音楽室はしんと静まり返った。
「……」
彼は、とても驚いた顔でこちらを見ている。
驚かれるのも無理はない。
わたしと彼、鈴木湊人くんは、2年になったこの春から同じクラスだけれど、ほぼ一度も言葉を交わしたことがないのだから。
ひょっとしたら、彼はわたしの名前はおろか、わたしがクラスメイトであることすら認識していない可能性もある。
そのくらい、わたしはきっと地味で目立たない。
対する鈴木くんは、とても元気で明るい、クラスの人気者。
接点なんて何もない。
でも、わたしだって、思わず話しかけてしまうくらいに驚いたのだ。
彼がピアノを弾くなんて、全く想像ができなかった。
だって、鈴木くんはスポーツ万能で、サッカー部のエースなんだもの。
「お、同じクラスの鈴木くん……だよね?」
話すのも緊張するけれど、それよりこの沈黙に耐えかねて、わたしはおずおずと言葉を発した。
「……」
「わたし、クラスメイトの…田崎《たさき》奈々《なな》です」
鈴木くんは少し考えて、それから
「…………あー」
わたしを覚えているのかいないのか、曖昧な返事を返した。
「……鈴木くん、ピアノ」
「ん?」
「ピアノ、弾けるんだ?」
「……あー、うん」
「さっきの、プーランクだよね?」
わたしが尋ねると、鈴木くんは驚いたように目を大きく開いて、それから「うん」と、とても嬉しそうに頷いた。
「ねえ、奈々ちゃんも」
「えっ?」
話すのは初めてなのに、いきなり「奈々ちゃん」なんて呼ばれたので、一瞬びっくりしたし、久しぶり過ぎて少し恥ずかしかった。
中学生になってから、大抵の男子は女子のことを苗字で呼ぶからだ。
でも、そういえば鈴木くんは、クラスの女子を下の名前で呼んでいる気がしなくもない。
だとしたら、変に意識する方が逆に恥ずかしい。
「奈々ちゃんもピアノ弾くの?」
あれ? それより、鈴木くんはわたしが今日クラスの伴奏に選ばれたのを知らないのだろうか。
……あ、地味なわたしなんて、まだ名前と顔も一致していないか。
「プーランク知ってるから、ピアノ弾くのかなって」
「あ、えっと……趣味でちょっと触るくらいです」
わたしが遠慮がちに答えると、鈴木くんは「なんで敬語なの?」と笑った。
教室でも常に笑顔が絶えない鈴木くんだけれど、その笑顔が今まで自分に向いたことはない。
でも今は、わたしだけに向けられている。
それはなんだか不思議で、そして、とてもドキドキするものだった。
話しかけるつもりなんてなかったのに、気づいたら口に出していた。
その途端、ピアノを弾いていた彼の手が止まった。
ピアノの音ももちろん止まって、音楽室はしんと静まり返った。
「……」
彼は、とても驚いた顔でこちらを見ている。
驚かれるのも無理はない。
わたしと彼、鈴木湊人くんは、2年になったこの春から同じクラスだけれど、ほぼ一度も言葉を交わしたことがないのだから。
ひょっとしたら、彼はわたしの名前はおろか、わたしがクラスメイトであることすら認識していない可能性もある。
そのくらい、わたしはきっと地味で目立たない。
対する鈴木くんは、とても元気で明るい、クラスの人気者。
接点なんて何もない。
でも、わたしだって、思わず話しかけてしまうくらいに驚いたのだ。
彼がピアノを弾くなんて、全く想像ができなかった。
だって、鈴木くんはスポーツ万能で、サッカー部のエースなんだもの。
「お、同じクラスの鈴木くん……だよね?」
話すのも緊張するけれど、それよりこの沈黙に耐えかねて、わたしはおずおずと言葉を発した。
「……」
「わたし、クラスメイトの…田崎《たさき》奈々《なな》です」
鈴木くんは少し考えて、それから
「…………あー」
わたしを覚えているのかいないのか、曖昧な返事を返した。
「……鈴木くん、ピアノ」
「ん?」
「ピアノ、弾けるんだ?」
「……あー、うん」
「さっきの、プーランクだよね?」
わたしが尋ねると、鈴木くんは驚いたように目を大きく開いて、それから「うん」と、とても嬉しそうに頷いた。
「ねえ、奈々ちゃんも」
「えっ?」
話すのは初めてなのに、いきなり「奈々ちゃん」なんて呼ばれたので、一瞬びっくりしたし、久しぶり過ぎて少し恥ずかしかった。
中学生になってから、大抵の男子は女子のことを苗字で呼ぶからだ。
でも、そういえば鈴木くんは、クラスの女子を下の名前で呼んでいる気がしなくもない。
だとしたら、変に意識する方が逆に恥ずかしい。
「奈々ちゃんもピアノ弾くの?」
あれ? それより、鈴木くんはわたしが今日クラスの伴奏に選ばれたのを知らないのだろうか。
……あ、地味なわたしなんて、まだ名前と顔も一致していないか。
「プーランク知ってるから、ピアノ弾くのかなって」
「あ、えっと……趣味でちょっと触るくらいです」
わたしが遠慮がちに答えると、鈴木くんは「なんで敬語なの?」と笑った。
教室でも常に笑顔が絶えない鈴木くんだけれど、その笑顔が今まで自分に向いたことはない。
でも今は、わたしだけに向けられている。
それはなんだか不思議で、そして、とてもドキドキするものだった。