モノクロに咲く花~MadColors~
「大丈夫?」
視界が暗くなり、誰かが目の前に立ったことが分かる。一花は顔を上げると信じられない人を目にする。
「え……。壱川君……?」

そこには心配そうな顔をしている宙がいた。彼はしゃがむと、一花に話し掛けた。

「大惨事だね、立てる?」

「あ……は、はい」

差し出された手に恐る恐る一花が手を出すと、宙は素早く掴んで引っ張り上げる。一花は直接手を触られたことにドキッとした。

「これは派手にやったね、制服もずぶ濡れだ。……あれ、顔にも……」

宙はポケットに手を入れるとハンカチを取り出し、ごくごく自然な手つきで一花の顔に撥ねた水をふき取る。
一花はぽかんとして何も言えなくなってしまった。

(う、嘘……壱川君、近いよ……!)

「これ、使って」

「そんな、汚いから……」

一花は首を横に降り、遠慮するも宙はその手にハンカチを握らせた。

「君はまず着替えたほうがいいよ。着替えある?」

「た、体操服なら……」

「それがいいね。ここは俺が片付けるから、着替えてきなよ」

一花とのやり取りを見守っていた女子生徒達はここぞとばかりに駆け寄って、宙に話し掛ける。

「あ、私も手伝います!」

「私も!」

「雑巾持ってくる!」

そんな女子達にむしろ押し出され、一花はいつの間にか廊下の隅に追いやられていた。濡れた格好でロッカーに向かい、着替えを取り出しながら、一花は宙の人望の厚さを羨ましく思った。
保健室に移動し、カーテンを閉めて急いで着替えに取り掛かる。先ほどの宙とのやり取りを思い出し、赤面する。
宙に話し掛けられた時の視線、声のトーン、立たせてもらうために引っ張りあげて貰った時の腕の感触……どれも思い出すだけで動悸がぶり返す。
(どうしよう、まだドキドキが止まらないよ……)
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