モノクロに咲く花~MadColors~
着替えを済ませ、先ほどバケツをひっくり返してしまった廊下に戻るが、そこには誰もいなかった。

(もう片付け終わってる。……お礼、言いたかったな)
そのがらんとした廊下を見て、一花はまた宙のことを思い出し、胸の前でぎゅっと手を強く握りしめた。

鞄から鍵を取り出し、そっと扉を開ける。いないで欲しいと願いながら玄関の靴を確認すると父親の靴
が存在し、顔が曇る。

「ただいま」

「遅かったな」

リビングで小難しそうな新聞を広げて、読んでいる一花の父―――如月誠司は帰宅の挨拶に顔も上げずに返事をした。

声色は固く、問い詰める口調で、とても帰宅を喜んでいるようには思えなかった。

「ちょっと色々あって……」

「どうせ遊んでいたんだろう。そんな暇があるんだったら勉強しろ。前回十一位だったろう、次は学年一になるんだぞ」

「……はい」

理由はいつも無視されてきた。なぜ体操服なのか。なぜ遅くなったのか。なぜ成績が思うように上がらないのか。いつもその原因は父親の中で決めつけられ、一花は理想を押し付けられ続けている。
一花がリビングから出ていこうとすると、その背中に畳みかけるように誠司はため息交じりに言葉をぶつける。

「お前みたいな落ちこぼれが如月家の人間というだけでも恥さらしだというのに、他に取り柄が無いのならせめて学力だけでもトップになれないのか?」

何度も聞いてきた嫌味だが、慣れるはずもなく、一花の目には涙が滲む。

「誠一は出来が良くて常にトップだったというのに。その誠一もあんな事件を起こして、お前たちは私にいくら恥をかかせたら気が済むんだ」

「……ごめんなさい」

「さっさと飯の支度をしろ」

一花は扉を閉めると、すぐ横の壁にぐったりと寄りかかり、天井を仰いだ。

(ここでも、私の居場所は無い)
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