魔法の鍵と隻眼の姫
祭壇の前に来た4人を待っていたのは棺に入った真っ黒いドレスを纏い眠っているような女性。

「こちらが大魔女ヴァルミラ様じゃ」

「えっっ!」

「この方が?」

「生きて…いるのか?」

驚く4人は今にも目を開け起き上がるのではないのかと固唾を飲んでヴァルミラを見つめる。

「生きてはいる。だがもう100年も前に永遠の眠りに付いている」

魔女は永遠の命を持っていて何をしても死ぬことはない。
しかし長く生き過ぎたせいで疲れたヴァルミラは自分自身に眠りの魔法を使って眠りについてしまったらしい。

「ラミン下ろして…」

ヴァルミラから目が離せないミレイアはラミンに下ろしてもらうとふらふらとヴァルミラの眠る祭壇の前に行き膝を着いた。

食い入るように見つめる先には白銀の綺麗な長い髪、白い肌、長いまつ毛、深紅の唇。
20代後半くらいに見えるその容姿は眠っていても美しいと分かる。
やはり少しラミンに似てるような気がする。

「ああ我がご先祖」

キースもひざまずづき祈りを捧げる。
国王はモリスデンに尋ねた。

「もう起きることはないのか?」

「ない。…とは言いきれないがその方法はワシにもわからぬ。何かの切っ掛けで起きるやも知れぬが…」

「そうか…出来れば助言など頂けると良かったのだが…」

国王は残念だと首をふる。

ラミンは言いようのない既視感に囚われて頭を抑え立ち尽くしていた。

この女、会ったことがある…。
それは夢だったか現実だったか…はたまた前世の記憶なのか…
確かにこの女と対峙したことがある。
思い出そうにも頭痛がしてきて何も思い出せない。

「眠りの森の姫は運命の王子にキスをされ目を覚ますけど…、ラミン試してみたら?」

「はあ?なにいってんだ?」

ヴァルミラをじっと見ていたミレイアが突拍子もないことを言い出してラミンは頭痛も吹っ飛び思わず突っ込む。

「確かにそれも一つの手ですな?」

キースがそれに乗ってうんうんと頷いている。

「バカ言うな!この女は謂わば俺の先祖なんだろ?先祖にキスとかあり得んだろ?キースお前がやれ」

「何を言います?私にとっても同じご先祖様ですよ?畏れ多くてできるわけがありません」

滅相もないとキースが言うと、じゃあ…残るは一人のみ。
かつてはヴァルミラの愛した男の子孫だ、何かあるかもしれない。
期待を込めて振り返り見てくる3人に国王は思わず一歩後退る。

「い、いや、私は妻の居る身なのでそんなことはできない」

冷や汗をかきながら無理無理と首を振る。
いくら先祖との仲があっても今の自分は全くの別人、試すなんて出来ない。

「ばかもんが、そんなことは当の昔にやっておるわい」

腕を組んでふんと鼻息荒く言い放つモリスデンに4人はばっと注目した。

「モリーがキスしたの?もしかしてモリーって…」

目を真ん丸くして見つめてくるミレイアにモリスデンはほんのり頬を赤くして咳払いをして目を逸らす。

「へえええ~、ジジイがねぇ……いてっ!」

意味深ににやりと笑うラミンにゴツンっと鉄槌を喰らわしたモリスデンはまたふんっと鼻を鳴らす。

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