魔法の鍵と隻眼の姫
「ああ、救世主様のお陰で荒れてた畑も元通りになったし痩せてた家畜も丸々と肥れるほどの餌が取れるようになった。今は建設ラッシュで大工が生き生きと仕事をしているよ。前は家を建てる余裕のある者はいなかったから、仕事がなくて飲んだくれてたランドル爺さんも意気揚々と仕事に励んでるし…」

「ああ、あの爺さん、大工だったのか…」

祠の場所を教えてくれた老人。
飲んだくれよれよれだったランドルを思い出したラミンはいつかの日を思い出し遠い目をする。

「ミミちゃん…そうか…いないのか。会いたかったな…。世界を救ってくれた救世主様は黒髪の綺麗な王女様だって聞いたから、ミミちゃんだったらいいのにって思ってたんだ…」

ミレイアの容姿も噂されてたとは驚きだったが、話を聞かせてもらったお礼も聞いているのかいないのか、しゅんとしたシャルーは去っていった。

再び馬に乗り行こうとするラミンを呼び止めたトニアス。

「ねえラミン、ミミちゃんって誰?」

「ああ、あいつの偽名だ。いい案が浮かばなくてミミミミって連呼してたな…」

「あいつ…」

自分が言い出した事なのにその時のことを思い出して、あの時は焦ってたなとおかしくなり笑うラミンを、訝しげな目で見るトニアスはラミンがあいつと呼ぶのは誰なのか一瞬わからなかった。

「ミミ……ミレイアのことか?」

「ああ、本名言ったら何が起きるかわからなかったからな」

でも今はミレイアの名前を堂々と言える筈だがラミンは一言もミレイアの名前を口にせず、言うのは王女やあいつや小娘…そんな呼び方しか聞いたことがない。
小娘なんて言った際には目くじら立てて怒ったものだが、一貫して言い直すことはなかった。

「ラミンは何故今もミレイアの名前を呼ばない?」

言葉に一瞬詰まったラミンははあっとため息をつき遠くを見つめる。
一度もミレイアを名前で言わなかったのは初めて会った時から惹かれていたからかもしれない。

「言ったら最後、引き返せない気がした…」

こいつは12も下の小娘だと、そう言い聞かせ無意識に歯止めを掛けていた。

ミレイアを想っているのがありありとわかる横顔を見つめトニアスは軽い嫉妬と眠るミレイアに会わせた時の感情を思い出した。

ラミンは絶対ミレイアを愛している。
悔しいけど運命の相手であってほしい。
そんなことを考えたトニアスは首を横に振り話を変えた。

「そういえばアマンダとか言う人も出てきたな?誰?いちゃついてたって…」

「っ……アマンダは…昔馴染みだ。それより先を急ぐぞ!」

ばつの悪くなったラミンは話を誤魔化すようにウォルナーの腹を蹴り駆け出して行った。

「あっちょっと!話は終わってないよ!」

慌てて駆け出すトニアスは何かあるなと思いながらも小さくなっていくラミンを必死で追いかけた。
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