魔法の鍵と隻眼の姫
焦るラミンが呼びかけると一度閉じた瞼がそれに応えるようにゆっくりと開き、焦点の合わない目線を彷徨わせ、ラミンを見つけると唇が弧を描いた。

「ラミン…」

そのか細い声を聞いてラミンは震える両手をミレイアの頬に添え瞳を覗き込む。

綺麗なアメジストの左目。

右目は…赤みは少し残っているものの紛れもなくアメジストの瞳。

黒い闇はどこにもなくただ透き通った綺麗な瞳がラミンを映していた。

「ああ…やっと、やっとだ…」

切なげな表情のラミンはミレイアの頬を撫で背中に手を回し抱き起した。
まだ体に力が入らないのかミレイアはされるがまま首元に頭を預けたラミンの温かさを感じた。

「ったく…いつまで寝てるんだお前は…心配、させやがって…」

抱きしめる腕も声も震えて、顔を伏せたままのラミンの頬をミレイアの手がそっと触れる。
それに気づいたラミンが顔を上げると鼻が尽きそうなほど間近に微笑むミレイアの顔。

「ラミンが、迎えに来てくれるの待ってたの…」

「…俺を?…俺がもっと早く来ていれば…」

ミレイアはもっと早く目覚めていたのか…?

眠るミレイアを見ていられなくて声も掛けてやることが出来ずにいたこの一年。
今さらながら意気地の無い自分に失望し愕然とする。

「ううん、時間が必要だったの。ラミンにも、私にも」

ゆっくりとミレイアの両手がラミンの頬を包み、いつの間にか流れる雫を拭い目を合わせた。

「離れてる時間が愛を育てるのよ?知ってた?」

眉根を寄せるラミンにいたずらっ子のようににこりと笑ったミレイア。

「ばかやろ…そんなの知らねえ…。俺が、どれだけ…」

言葉が出ない…。

今までの、胸がつぶれそうな想いも、恋い焦がれる想いも、命を尊ぶ想いも…色んな想いがごちゃ混ぜになってラミンを締め付け苦しめたこの1年が涙となって流れ落ちた。

拭っても拭ってもこぼれ落ちる雫を拭きながら、揺れるブルーグリーンの瞳をミレイアも涙を溜めて見つめた。
ラミンの苦しみは計り知れなくてそれを思うとミレイアも胸が締め付けられる。

「ミレイア」

ミレイアが言葉を掛けようとした時、不意に名を呼ばれ、コツりと額がぶつかった。

「…初めて、名前を呼んでくれたわね」

「もう、何度も呼んでいる」

ラミンは上目遣いのミレイアの瞳を覗きこんだ。

ずっとずっと、心の中でミレイアの名を呼び続けていた。

……ミレイア戻ってこい……

平和を取り戻したあの日から叫びにも似たその願いを毎日毎日後宮を見つめながらずっと……。

「ミレイア……愛してる。もう、何処にも行くな…」

ラミンの真剣な眼差しに溢れた涙が止めどなく流れ落ちる。
ミレイアは泣き笑いを浮かべ手をラミンの首に腕を回した。

「ずっとあなたの傍にいるわ。ラミン、愛してる」

二人とも額を付けたまま微笑み合い近付く唇。

吐息が重なり唇を寄せ合い、温かいその唇から想いが溢れより強く抱き締め合った。


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