魔法の鍵と隻眼の姫
ラミンに初めて会ったときはなんて綺麗な人だろうと思った。

背が高く健康的な浅黒い肌、輝く白銀の髪、切れ長の目に筋の通った鼻。どこか憂いを含むそのブルーグリーンの瞳に目が釘付けになったものだ。

既にセイラスを愛してやまないリノンにとっては目の保養にしかならないけども、きっとまだ愛を知らないうちに出会っていたら恋していただろうと思う。
セイラスには内緒だけども。

だけど今日のラミンは少し不機嫌そうな顔をしているがどこか吹っ切れたような感じで、憂いを含んだ瞳はどこにもなかった。
どちらかと言えば生気に満ちた力強い瞳。

「さあリノン、そなたに会わせたい者がいる」

「会わせたい…?」

皆の顔を見回すとトニアスも王妃も嬉しそうに頷く。
最後にセイラスに顔を向け微笑み頷くのを見て、国王に促されるまま一歩二歩と足を進めた。
その前にはラミンが立っている。

「さあ、ラミン」

国王に呼ばれラミンは一瞬ふっとため息をついて後ろを振り向いた。
ラミンに隠れて気付かなかったけども後ろに誰かが立っていた。
薄紫の柔らかそうなドレスが見える。

「…え…?」

「初めまして、リノン王女様」

しっとりと礼をするその人は…

長い艶やかな黒髪、白い肌にほっそりとした頬、さくらんぼのような真っ赤な唇、そして、左右で少し色味の違う大きなアメジストの瞳がリノンを映し出す。

「ま…あ…」

ニコリと笑うその笑顔に魅入られて口元を手で隠し一歩前に出る。

「まあ…まあっ!」

待ちに待ったこの日がついに来たことをリノンはやっと理解してミレイアに駆け寄り勢いよく抱きしめた。

「キャッ・・・」

「あっ、おいっ」

よろけ小さく悲鳴を上げたミレイアを力いっぱい抱きしめたリノンは不機嫌な声が横から聞こえたのは気付かずにガバッと離れるとミレイアの頬を包み瞳を覗き込んだ。

「会いたかったわ!ミレイア様!いえ、眠るあなたには会ってるのだけど、ああ!この日が来るのをどれだけ待ち望んだか!よく顔を見せて頂戴!」

興奮冷めやらぬリノンはミレイアを見つめ手を握り目覚めたことを喜んだ。
そんな二人を周りは温かく見守る。一人を除いては…。
最初はリノンの勢いにタジタジだったミレイアもニコリと笑顔を浮かべる。

「眠ってる時にお母様とは違う優しい声が聞こえました。リノン王女様だったのですね?その声には聞き覚えがあります」

漸くリノンが落ち着いたころにミレイアが言うと感極まったリノンは目に涙を浮かべてうんうん頷いた。

「綺麗な歌が聞こえました。ずっとそれが耳から離れなくて私も夢の中で鼻歌を歌ってたんですよ?」

コテンと首を傾げたミレイアが可愛くて嬉しくて涙が止めどなく流れ、見かねたセイラスがリノンの肩を抱いてそっとハンカチで涙を拭ってやった。
ミレイアも微笑みながら一筋涙が零れる。
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