白雨の騎士

二人並んで、剣の素振りをした。シドの額には少し汗が滲んできた。


「涼しくなったな。」

アンナは高くなった空を見上げて行った。数日前まではこの稽古場に出るのが嫌になるくらいジリジリとした暑さだったのに。


「はい、過ごしやすくなりました」


暫く稽古を続け、二人は少し休憩をしていた。

すると稽古場に、近衛隊ではない男の人が1人、ひょこっと顔を覗かせた。

黒髪に、スラリと高い背の男性は辺りをきょろきょろ見渡している。


「誰だろう…」


するとその男性はシドとアンナに気が付くとこちらに近寄ってきた。


「すみません、アリス様の執務室はどこですか。」


淡々と話す男性は左手に数冊の本を抱えている。


「えっと、アリス様の執務室は東の塔の3階です。ここからは少し遠いですが…」

男性はふむ、と少し考えるとくるっと背を向けた。


「分かりました。ありがとうございます。」


それだけ言うと、すたすたと歩いて行った。

しかし、稽古場から見える渡り廊下を行ったり来たりしている。


「あれ、迷っていますよね…」

明らかに迷っている男性を見てシドとアンナは顔を見合わせた。
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