白雨の騎士
「…よかったのか?」

キッチンで食事の支度をするハンスにアルが問いかけた。


「…お父様、よかったのって何が?」

ハンスは野菜を切りながら言った。

「…シドの事だ。この家を出て、近衛になると。」

ハンスは手を止めて、小さく溜息をついた。


「…シドの小さい頃からの夢よ。」


そう答える娘に、アルはなにも言わず新聞を広げた。


「…お父様、あの話お受けするわ」


ハンスは振り返り、父の目をまっすぐに見て言った。


「縁談のことか?」

ハンスはコクンと頷いた。

隣町の地主から、自分の息子をハンスにと縁談話が来ていた。

ハンスは視線を落とし、再び包丁を手に野菜を切り始めた。


「…分かった。」



***



その頃、王宮ではオーギストが慌ただしく近衛隊募集の準備に追われていた。

「…全く、国王様も急な思いつきをなさる。。アンナ、最終審査はお前に任せたぞ。」

腰に剣を指し、長いブランドの髪を一つに束ね騎士団の服に身をまとった美しい女が、オーギストの言葉に頷いた。


「審査の内容もお前に任せる。但し、今回は腕は関係ない。アリス様の気を引けそうな騎士を選ぶんだ」


アンナはオーギストの言葉に視線を細めた。


「…そんな腰抜けたちを選ぶのに、時間を割くのは勿体無いと思いますが」

冷たく言い放つアンナに、オーギストは溜息をついた。


「…そう言うな、国王様のご命令だ」

オーギストの言葉を最後まで聞かず、マントを翻しアンナは部屋を後にした。


「…やれやれ、相変わらず気の強い女だ。。」

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