偽物の恋をきみにあげる【完】
旅館でチェックインを済ませて、桂浜に行った。

美しい海と砂浜はかなり絶景なのだが、真冬な上に日が落ちてきたせいで、海風がとにかく冷たくてたまらない。

「うう、寒いー」

「うん、まじさみーわ」

大雅とぴったり身を寄せて歩いているが、あまりに寒くて幸せを感じる余裕はない。

南国土佐と言えど、冬は寒いのだ。

「てか旅行、春にすればよかったよね」

私が何気なく言うと、大雅は少し困ったように視線を泳がせた。

「んー、春は一緒に行けないし」

なんで? という言葉を発する直前、『半年だけ』という言葉を思い出した。

そうか、私達の恋人ゴッコは、来月で半年経ってしまうのだ。

春には、一緒にいないから?

……どうして半年しかいられないの?

「ねえ、大雅。なんで私達、半と……痛っ!」

話している途中で、大雅にデコピンされた。

「ちょ、もう! なんでいつもそうやってはぐらかすの?」

私が言うと、大雅はヘラっと笑った。

「ややこしいことは置いといて、旅行を楽しもうではないか、瑠奈クン」

「でも……だって」

「いいの!」

また私の額をピンッと弾いて、大雅は言った。

「瑠奈と幸せな思い出、いっぱい作りたいんだよ」

嬉しい筈の言葉なのに、まるで「さよなら」の予告みたいに聞こえて、少し切なかった。
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