偽物の恋をきみにあげる【完】
「月奈」

声をかけたけれど、起きる気配はない。

「月奈、月奈ちゃーん、月奈ー」

今度は少し大きめな声で呼びながら、まるいほっぺたをペちペちと叩いてみた。

「……ん……んー。…………たいがぁ?」

月奈がうっすらと目を開けた。

俺は胸をなで下ろした。

でも多分、大変なのはここからだ。

「月奈、帰るよ」

俺が言うと、月奈は案の定、俺の太ももの上で頭を振った。

「やだ」

言うと思った。

「やだじゃなくて」

可愛すぎて何の拷問だろう。

俺は昔から、コイツをどうしても可愛いと思ってしまうらしい。

「大河~、ちゅーして~」

「……ダメ」

「なんでえ?」

「1秒でも早く帰りたいから」

心にもないことをできるだけ冷たく言い放つと、月奈は突然ムクッと起き上がった。

「お、帰る気になった?」

「ちがくて、大河ぁ」

月奈は甘い声で呼びながら、俺の肩に腕をまわした。

「……なに? 」

「好き。好き。ちょー好き」

何故そうなる。

勘弁して欲しい。
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