偽物の恋をきみにあげる【完】
セックスの後、大雅は私に軽くキスをしてから、ボクサーパンツだけ履いて煙草に火をつけた。

カチッ、ボッ、というジッポの音が、有線を流し忘れた静かな部屋に響く。

私は言葉を発するのも忘れて、その綺麗な横顔にうっとり見とれていた。

「……そういえば、今何時?」

口の端から煙を軽く漏らしながら、大雅が私に尋ねた。

「えっと……10時過ぎたとこ」

ベッドに備え付けられたデジタル時計を見ながら答えると、大雅が「まじで!?」と焦った声を上げた。

「やば、急いで帰んなきゃ。瑠奈、早く服着て」

煙草を乱暴に揉み消しながら、彼は私を促す。

「は?」

何がなんだか分からない私に、

「……言ってなかったっけ。俺、11時までに家帰んないとまずいから」

大雅は淡々と告げた。

「えっ門限? ……もしかして大雅、結婚してる?」

驚いて聞き返せば、大雅はケタケタと笑った。

「やだなー瑠奈さんたら。僕、独身ですよー」

「ふーん」

じゃあなんで慌てて帰るの? とは訊かず、私は軽く流して服を着た。

でも、この時ちゃんと尋ねておけばよかったのだ。

今更訊きづらい。
< 23 / 216 >

この作品をシェア

pagetop