偽物の恋をきみにあげる【完】
「時間ないから今日はホテルね」

寿司屋を出た所で大雅が告げた。

私は黙って頷く。

夜の繁華街を、ホテル街に向かって歩き出した。

すれ違う女性達が、大雅にチラチラと視線をやるのがわかる。

スラリと背が高く、綺麗に整った顔をした、まるでモデルみたいな隣の彼。

誰が見ても間違いなくイイ男で、そんな彼と歩いている私は、ちょっとした優越感に浸れるのだ。

でも……。

並んで歩く私と大雅の間を、12月の空っ風が通り抜けた。

「うわ、さみー!」

「ね、寒い!」

どんなに寒くても、私達は決して寄り添ったりはしない。

私は大雅の『恋人』ではないから。

再会して以来、何度キスして何度体を重ねても、私達の間に「好き」や「愛してる」の言葉が交わされたこともない。

セックスして、終わったらばいばい。

それでも、大雅と過ごす時間を愛おしいと思うのは、これが恋愛だからなのだろうか。

……いや、きっとこれは、恋に似た何か。

こんなのカラダだけの、偽物の恋だ。

不意に、並んで歩く私と大雅の手が触れた。

「あ、わり」

恋人ならそのまま手を繋ぐはずなのに、そうできたら冬の夜道もきっと暖かいのに。

大雅は謝った。

とっくに私のカラダの隅々まで犯しているくせに、手が触れただけで謝るなんて。

ちゃんちゃらおかしい。
< 25 / 216 >

この作品をシェア

pagetop