偽物の恋をきみにあげる【完】
喜多野課長をコタローくんと重ねるなんて。

自分の脳ミソがあまりにもご都合主義で呆れる。

でも、確かに課長は20代後半くらいに見えるし、眼鏡をかけているし、名前も似ているし、喋り方や声のイメージもぴったりなのだ。

もしも仮に、ものすごい偶然に、課長がコタローくんだったら?

可能性はきっと限りなくゼロに近いが、ゼロではないのだ。

……などとくだらない考え事をしながら仕事していたら、あっという間に定時になった。

私の仕事は、平野主任の補佐が主だ。

主任は今、年明けの販売促進イベントを担当しているが、準備はほぼ終わっているので、私の業務もかなり少ない。

慌てて帰る理由はないけれど、帰らない理由もないから、さっさと帰り支度をしてフロアを出る。

途中トイレに寄ってから、エレベーターに向かうと、昼間とは違い、今度は最悪な人物と鉢合わせてしまった。

「あ、及川さん。今帰り?」

「あ、平野主任。お疲れ様です」

一応上司なので、露骨に嫌な顔をしてしまわぬよう、必死で口角を上げた。

「及川さん、このあと予定あるの?」

ああ、やっぱり来たか。

「えーっと……ああ、今日はこれから友人と飲みに行く約束があるんです!」

当然予定などないが、しれっとそう答える。
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