偽物の恋をきみにあげる【完】

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夜7時半、指定された通り職場近くの駅前で待っていると、5分ほどして大雅が現れた。

「お待たせ。行こっか」

「ねえ、今からどこ行くの?」

「ひみつ~」

大雅は悪戯っ子みたいに笑った。

夜の街を、2人で並んで歩く。

3連休の初日、しかもクリスマスイブ前夜の街は、多くの人でごった返していた。

街路樹やビルを彩る、たくさんの美しいイルミネーション。

あちらこちらから流れてくるクリスマスソング。

すれ違う人々はみな楽しそうな笑顔。

私は単純だ。

つい昨日まで鬱陶しかったはずのクリスマス一色の景色は、今はなんだか夢心地。

「やっぱどこも混んでんね。予約しといて正解」

「ごはん、予約してくれたんだ?」

「うん。だって、こんな日に食事難民になりたくないじゃん?」

食事ができる店を何件も通過したが、どこも人で溢れているようだった。

世間はクリスマスを満喫するものなのだと、改めて認識する。

ここ数年の私のイブは、いつも通り小説を書いて過ごすだけのものだったのだ。

今年もぼっちになって、荒んだ心でクリスマス短編でも書くところだった、危ない。
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