あの日勇気がなかった私たちは~卒業の日~
そんなこんなで教室で話し相手になることになった私は、いつもは黒板に向いている自分のイスを後ろに向けた。

ふたりとも自分の席に座っているから、かなり距離が離れている。
これが今の私たちの心の距離ということだろう。


「桜庭さんも勉強してたのにごめんね」

「ううん、大丈夫だから気にしないで」


返事を返しながらペットボトルの蓋をあける。
新発売のいちごみるく、一体どんな味だろう。


「最近教室で勉強しているの俺たちだけだね」

「そうだね。みんな塾に行ってるから」


答えながらいちごみるくを飲んでみる。

(あ!これすごくおいしい)


「このいちごみるくおいしいね」


どうやら一ノ瀬くんもこのいちごみるくが気に入ったようだ。
男子は甘いものが苦手な人が多い気がするが、一ノ瀬くんはそうではないみたい。

「そうだね、飲めてよかったよ」


お互いいちごみるくを飲みながら、ぽつぽつ会話をかわす。

(この会話のテンポ感好きだな)

莉子とワイワイ騒ぎながらの会話、愛との服やおしゃれなカフェの話。
もちろんそれらも楽しいし、私にとって大切なもの。
でも一ノ瀬くんとのゆっくりとしたテンポの会話も好きだなと感じた。
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