トリップしたら国王の軍師に任命されました。

 同世代の女性は、どうしてそんな妄想をするのか、明日香の意図を知ることはできないだろう。

 明日香本人にしても、妄想に意味はない。昔の人間の姿を想像し、歴史ロマンに触れることがただただわけもなく楽しいのだ。

『葺石が足りぬ! 奴隷たち、早く石を集めるのじゃ!』

 現場監督のみずらイケメンを妄想して強く足を踏み出したときだった。

──ズボッ。

「ふきゃっ!?」

 何の前触れもなく、突然右足が沈んだ。階段を踏み外したような感覚に驚き、目を開ける。けど、周りを確認する余裕はなかった。落とし穴にはまったかのように、体全体が勢いよく下方に落下していく。

「た、竪穴式いいいぃぃぃぃいぃぃぃ」

 古墳の上から謎の穴に落下した明日香の悲鳴を聞いた者は、彼女以外誰もいなかった。

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