トリップしたら国王の軍師に任命されました。
「あなたこそ……エルフ戦士のコスプレみたい……うっ」
「痛むのか。仕方ない」
外国人は難しい顔で、軽々と明日香を抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこをされ、明日香は戸惑う。
「あっ、あのう」
「黙っていろ。傷に障る」
だんだんと意識がはっきりしてきた明日香は、男の腕の中から周囲を見渡す。
足元は草木に覆われており、周囲にも立派な樹木が乱立していた。見上げれば、枝葉の隙間から陽光が筋になってさし込む。
そんな草木の間に、ぽつんと石が置かれていた。気になって目をこらすと、それは井戸だった。枯れているらしく、使われている形跡がない。劣化した石の割れ目から、草の目がふきだしている。
「こ、ここはどこですか?」
古墳の中でも、外でもない。まったく知らない景色に明日香は急に不安を覚えた。
「とにかく、体を休めろ。話はその後だ。こんな山奥にいてはいけない」
「ちょっと待って。親に連絡を……」
どこかに拉致されそうな雰囲気だ。危険を感じた明日香は、ポケットから携帯を取り出す。素早くタップして母親に電話しようとするも。
「電波……ない……」
呼び出し音さえならない。試しにSNSを開いてみたが、こちらも『オフラインです』と出るだけだった。