トリップしたら国王の軍師に任命されました。

「頭を打ったのか。可哀想に」

 明日香を気の毒そうに見つめ、男は黙々と歩を進める。明日香は不安なまま携帯を握りしめ、動かない体を彼に預けた。

(色々不安だけど……なんとなく、この人は悪い人ではない気がする。単にイケメンだからかな……)

 明日香を抱えているというのに、男は素早く山道を降りていく。しばらく行くと、急に開けた場所に出た。そこには小さな山小屋と、畑があった。近くには川が流れていて、水車までついている。

(ど、どこの田舎よここ)

 明日香の自宅もおよそ都会とは言えない片田舎だが、これほどまでではない。のどかだ。のどかすぎる。

「おい、ぺ……父さん。湯を沸かしてくれ」

 男は家の前で鶏にエサをやっていた初老の男性に、イケメンは声をかけた。

(よく見れば電線もない。テレビのアンテナもない。田舎暮らしに必須な車も、畑仕事用の軽トラも、ない)

 明日香はぞっとした。

(ま、まさか、古墳から異世界に来ちゃったとか、そんなバカなことが……)

 顔を上げた初老の男性も彫りが深く、日本人ではなかった。

(嘘だ、嘘だ嘘だ。どうせなら、戦国時代が良かったのにー!)

 とんでもないところに来てしまった。明日香にもそれだけはわかった。

 (戦国時代にトリップしたいとは考えていたけど、こんな西洋チックな場所に来たいとは言ってない! 古墳の豪族のバカー!)

 明日香は古墳の上にあった社を思い出し、憎んだ。古墳の主の霊か何かに意地悪されたと思わなければ、やっていられない。立っていることすら困難になりそうだった。


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