トリップしたら国王の軍師に任命されました。

「あのう、脱げました」

 声をかけると、ジェイルが振り返った気配がした。

「……よかった。皮がむけただけだ。血はにじむくらいで、大きな傷はない。すぐ治りそうだな。薬を塗ってやるから待っていろ」

 ジェイルがドアを開けて出ていく音がして、明日香はホッと息をついた。たとえ背中でも、男性に素肌をさらすのは大人になってから初めてだ。緊張しないわけがなかった。

 しかし彼女の安堵も長くは続かなかった。

 すぐにドアの開く音がして、ごつい靴が床を踏む。

「まず背中を拭く。いいな」

「はいっ」

 反射的に返事をした明日香の背中を、しぼった布で拭くジェイル。

「うひゃあ」

 手つきは優しいが、水の冷たさに背中をよじる明日香。

「こら、動くな……なんだこの奇妙な衣服は。邪魔だな」

「きゃああ!」

 ブラジャーの肩ひもをちょいと指ではじかれ、明日香は悲鳴を上げた。

「痛かったか、すまん。しかし見たことのない材質だ。それにこの細やかな刺繍……よほど腕のいい職人の手によるものと見た」

 ジェイルはブラジャーに興味津々らしい。いつの間にか明日香の前に回り、彼女の胸の辺りを凝視していた。

「やめてください!」

「お前もしや、高貴な身分の女性なのか。誰かに追われていて、怪我をしたのか」

< 9 / 188 >

この作品をシェア

pagetop