思いは海の底に沈む【完】
久し振りに面会をする

美代子さんは更に老け込んでいた



『美代…母さん。父さん連れてきた』

「…覚えてる…?」

「覚えてない。でも、お互いに老けたな」



母さんは涙を流した

「っ…忘れたことなんて…なかったっ…でも、現実はそんなに格好良くもなかったって…っ」

『俺も驚いたよ。俺、この人目指してたんだって。
でも、俳優の湊の方が何倍も格好良いよね』

「お前言い過ぎだろ!」

『聞いてよ母さん、父さんは今借金抱えてるんだよ
出会った頃は働けるのに生活保護で仕事してないしパチンコしながらブラブラしてて』

「今は働いてるっての!」

『うん!父さん働けるようになったんだ。偉いでしょ』

「…湊、本当にごめんね…」

『え…?』

美代子さんが…謝った?



「私…湊にそんな嬉しそうな顔…させたこと一度もないよね」

『…』





美代子さんは申し訳なさそうにしている

美代子さんが…初めて見つめ直してくれた






『大丈夫っ。大丈夫だよ美代子さん。これから、父さんみたいにいくらでも変われる
だから、俺、責めたりしないよ』

「っ…ごめんねっ」





涙を拭きながら刑務所を出た
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