狼を甘くするためのレシピ〜*
 注文を聞きに来た店員のおばちゃんに、ケイは「煮魚定食ふたつ」と言う。

 それにしても。
 ――今の私を見た感想は、顔色が良くなった、だけ?

 慌てて口紅は拭ってベージュの口紅に塗り替えたが、老けメイクをしていないだけじゃない。

 眼鏡はかけてはいるが、コンタクトレンズをつけているので伊達メガネだ。

 頬に詰めた綿も入れてはいない。
 もっとも、綿については前回も食事の邪魔になるので、焼きとり屋のトイレで取ってしまったが。

 自分で言うのもなんだが、相当違って見えるはずなのである。

 なのに、ケイには顔色しか見えないらしい。

 ――せめて、今日はキレイだな、くらいは言えないのかこの男。

 そう褒めてきたら、スーツが似合って素敵よ、くらいのお世辞を言ってあげるのに。

 この男はきっと、恋人が髪を切ろうが服を新調しようが全く気づかないタイプだ。
 鈍感男め。

 そんなことを思ううち、段々腹が立ってきた。
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