狼を甘くするためのレシピ〜*
 ――え?

「目が覚めたらお前はいないし、メモひとつないし」

 顔を上げると彼は、真面目な顔をしている。

「また会えてうれしいよ」

 それを聞いて、言葉を失った。

 怒りも忘れて胸が熱くなってくる。
 ああ、自分はなんてチョロい女なのだろう。

 そう思いながら、蘭々は唇を噛んで俯いた。

「じゃ、そろそろ行くか、忙しいんだろ?」

「あ、ああ、うん」

 付き合ってくれた礼だといって、会計はケイが払った。

 千円という定食代に、「ごちそうさま」とお礼を言う。

「どういたしまして」

 今度こそケイと会うのは最後だろう。そう思いながら、笑顔を作った。

「じゃあね」と片手をあげる。

 ケイは、ニッと口元で微笑むだけで何も言わない。

 胸に去来する名残惜しさを飲み込んで、踵を返す。

 早くこの場を離れなきゃ、自分から声をかけてしまう。

 そう思いながら一歩を歩みだすと、ケイが「アキ」と呼んだ。
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