狼を甘くするためのレシピ〜*
 昨日、暇にまかせて量販店のパイプハンガーに掛けられた服を一枚一枚見ながら考えた。

 もう、義務のように流行を追い続ける必要はないのだ。
 ――これから自分は、どんな服を着て、どう生きていこう。

 信号で止まると、ぼんやりと景色に目を向けた。

 マンションの駐車場から出て十五分。視線の先は、視界を遮られることなく、雲と一体化した遠い連山まで見渡せる。
 背の高いビルディングは、ほとんどない。

 信号が変わって更に進むと、住宅はまだらになっていき、農地が広がってくる。

 のどかな風景を見ていると、時間がゆっくりと過ぎていくような気がした。
 時間の経過は万人に平等なはずなのだから、そう思うのは自身の心にゆとりがあるからかもしれないが。たとえば、こんなところに住むというのはどうかと考えてみた。

 生活に必要なものが手に入りにくいこともない。不自由さはないだろう。

 そんなことを思いながら進むうち、その先にホームセンターが見えた。

 広々とした平面駐車場を持つ大型店舗だ。
< 19 / 277 >

この作品をシェア

pagetop