狼を甘くするためのレシピ〜*
 ――そうだわ。花が好きな叔母のために、バルコニーを飾る寄せ植えを作ろう。

 駐車場に入ると、店舗の入り口前に草花や野菜の苗が並んでいるのが見えた。

 その棚を覗いているのは作業服のおじいちゃんや割烹着姿のおばあちゃん。そして主婦歴の長そうなご婦人たち。

 ゆっくりとその場に向かって草花を見つつ、まずはご婦人の買い物の様子を観察した。

 ご婦人はカートに載せたカゴの中に段ボールの箱を入れ、そこに選んだ草花のポットを入れていく。

 ――なるほど。
 納得した蘭々は彼女達にならって手はずを整え、早速気に入った花の咲く黒いポットに手を伸ばた。

 ふと、泥汚れが目に留まる。
 外にあるのだから当然だが、黒いポットにも棚にも土がついている。指先や服の汚れが一瞬気になったが、もうそんなことは気にしなくていい。パンパンと叩いて落とせばそれで終わりである。
 人の目を気にしなければいけない日々は、過去になったのだから。

 そう思うとなにやら嬉しくなった。

 ――本当に別人になったみたい。

 ここにいる私に名前をつけようか。

 たとえば、ナミ。並であるからナミだ。

 アキはどうだろう。
 蘭の花は秋の季語だから。
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