狼を甘くするためのレシピ〜*
 ――それなのに。
 蘭々と径生。昼にふたりが会っていることは、確認済である。

 そして、径生の口ぶりからして、待っている女は恐らく蘭々。恐らくどころか間違いなく彼女だろう。そう思った。

 できることなら何かの間違いであってほしい。
 何か大きな勘違いをしているだけだと思いたかった。

 よりによってどうして径生なのか。
 親友と女を取り合うような真似はしたくないが、問題は蘭々の心がいまどこにあるかだ。

 ――既に手遅れなのか?
 流れる夜の街並みから目を逸らし、舌を打って溜息をついた時、電話が鳴った。

 蘭々からだった。

『仁? ごめんなさい出られなくて』

『ああ、蘭々、これから来ないか?みんなも来るぞ、紗空もいる』

 祈るような気持ちで、来ると答えろと念じた。
 来るという一言があれば、このまま蘭々を迎えに行き、想いを告げる。径生のことは過去にするだけだ。

 ――でも。

『うーん。ごめんね。今日は先約があるの』
 蘭々はそう答えた。

 その答えに目をつむり、間をおいて、「そうか。わかった。遅くまでいるから気が向いたら来いよ」そう言って電話を切った。

 あの夜のことをひととおり思い返した仁は、ふぅーと大きく息を吐く。
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