狼を甘くするためのレシピ〜*
 店を出ると、紗空は重い口を開いた。

「蘭々さん……なんて言っていいか」

 マスクをしているので蘭々の表情はよくわからない。

 でも、あんな現場を目の当たりにしてしまったのだ。ショックを受けていないはずがなかった。

「大丈夫だから、心配しないの。私はこれでも修羅場をくぐってきているんだから」

 パシッと紗空の背中を叩き、目元で笑いながら見送った蘭々は、何も考えまいと心を真っ新にして『コルヌイエ』に戻った。

 午後は、いつにも以上に集中して接客に励んだ。

 秋の長雨が途切れ晴れ渡った青い空が、人々の購買意欲を掻きたてたのだろう。
 客足は止まることなく店内は賑わっている。

 天気とは裏腹に、秋雨が心に降り注ぐ蘭々には、その忙しさがありがたかった。

 ぼんやりと考え事をする暇もなかったのだから。
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