狼を甘くするためのレシピ〜*
『あなたは上手くやったのよ。本当に貧相だったわ。選んだ服に溶け込んでいた』
 ランウェイを歩く時モデルは笑ったりしない。
 主役は自分ではなく、あくまでも服だと肝に銘じているからだ。

 あの時量販店で選んだ自信のなさそうな服がいけなかったのか。
 その時身に沁みついた心の弱さが深い根を張って、いつまでも居座っているような気がしてきた。

 重い心の淀みを吐き出すように大きく息を吐いた。

 そして顔を上げた時、ふと目に留まった通りの反対側を歩く男性。

 遠目にもわかる見慣れたシルエット。

 ――コウ?

 仕事帰りに待ち合わせたのか、スーツの上にコートを羽織っている彼は楽しそうに笑いながら、傍らの女の子の腰に手を回している。

 包み込むような仕草は、まるで誰にも取られまいとでもしているかのようだ。

 彼女のことが、可愛くて、愛おしくて仕方がないのだろう。
 そんな笑顔で笑っている。
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