狼を甘くするためのレシピ〜*
「まあ一時的だけどな。バッテリーは交換しなきゃいけないけど、交換する場所まではこの車で行ける」

 今初めて会ったというのに、知り合いと話しているような感じである。
 随分と気さくな男だった。

 返事を待つこともなく、彼は蘭々の車の運転席に手を伸ばしボンネットを開けた。

「今朝はちょっと冷えたし、季節の変わり目は上がりやすいんだよな」
 そう言いながら次は、軽トラックに乗り込んだ。

「そう、なんですか。季節の変わり目。知らなかった……」

 男は、ギュンとハンドルをひねり、軽トラックを蘭々の車と頭を突き合わせるように停車させる。

 そして今度は荷台のボックスをガサゴソさせて、赤と黒のケーブルを取り出した。

――なんだかすごいわ。

 軽トラックの運転といい、その無駄のない動きには圧倒されるばかりである。

「エンジンがかかったら、次にどうしたらいいかわかる?」

 ――え?
 突然の質問にハッとした。

「えーっとぉ」

 頭の中で、(叔母に電話をします)と答えてみたが、いくらなんでももうすぐ三十になる大人が、そうは言えない。
< 23 / 277 >

この作品をシェア

pagetop