狼を甘くするためのレシピ〜*

　悩んでいるふうに「うーん」と苦し気に唸った。

　でも彼には、この女、なにもわかっていないらしいとお見通しだったようだ。作業をしながら蘭々を振り返った男は、クスッと笑う。

「初めての経験か？」

「え？　ええ……」
　その通りです。はじめてのお使いのような気分です。と思いながら、シュンとして肩をすくめる。

「そのままディーラーに行ってもいいし。近場なら、そこの交差点を右に曲がって、コンビニが見えたらその先にカー用品の大型店舗がある」

「交差点を右、はい」　

「このままエンジンを切らずに行くんだぞ」

「はい。切らずに、ですね。はい」
　ひと言も聞き逃すまいと、とにかく蘭々は真剣に聞く。

「交差点を右に曲がって、コンビニの先の大型店舗ですね」

　確認するように聞き返す彼女は、もはや、『了解です！先生！』と答える生徒のようだった。