狼を甘くするためのレシピ〜*
「とにかく飲みましょう。男なんかいくらでもいるわ。過去になればみんな同じよ」

「そうよね」と蘭々がクスッと笑う。

 過去なんていらない。忘れるだけよ。
 そう思いながら、衣夢のグラスに自分のグラスをチンと合わせた。


 次の日の朝。

 蘭々は早めの電車に乗り、叔母の街へと向かった。

 朝日に街が光っている。空は清々しく、ビルの窓ガラスは眩しい。
 後ろ髪を引くものは、もうなにもない。

 持っていたなら気になって仕方がなかったかもしれないアキのスマートホンは、この世にもう存在しないのだ。

『蘭々、今後はもう小手先でどうこうしようなんて思っちゃだめよ。最初から正面でぶつかって弾けなさいな』

 老けメイクはもうしない。
 化粧をせずに明るい服を着て自分を取り戻す。

 ――大丈夫、私はケイと出会う前の、もとの私に戻れる。

 そう信じて、車窓を流れるビル街を見送った。
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