狼を甘くするためのレシピ〜*
 それから三十分ほどしただろうか。

 ワインが一本空になり、月子は化粧室に向かった。

 化粧室にも店内と同じ音楽が響いている。
 なので気づかなかったが、個室の中から出てきた時、洗面所に女性が立っていた。

 ――え?
 ここで待つほど、我慢ができなかったの? と訝しんだ。

 その女性は思いつめたように月子を見つめる。

 ゆっくりした覚えはないが、思わず「ごめんなさい、お待たせして」と、あやまりながら手を洗った。

 なのに、女性は月子を見つめたままで、個室には入らない。

 月子はふと気づいた。
 彼女は、ファッションモデルのように綺麗なふたり連れの女性のうちのひとりだと。

 見つめられる覚えはないが、もしかして知人だろうか? と、怪訝そうに振り返る。

「あの」と声を出したその時、その声に被せるように彼女が言う。

「ミナモトケイさんとお付き合いしていらっしゃるんですか?」

 月子の前に立ったのは、そう、紗空だった。
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