狼を甘くするためのレシピ〜*
「いいんですか? お邪魔して」

「どうぞどうぞ。混んできたのにひとりで席を独占するのは、気が引けるしな」

「すごい雨ですからね」

 席に腰を下した蘭々は、忘れないうちに礼を言った。
「この前は本当にありがとうございました。あの後、教えてもらったカー用品の店で無事交換できました」

「そっか、そりゃよかった」

「勧められましたよ。なんだかよくわからない物をいくつか。それも言われた通り断りましたけどね」

 例のように、アハハと白い歯を見せて男が笑う。

 彼は今日も無地のロングTシャツにジーンズを履いている。前回と違うところといえばスニーカーではなくサンダル履きだということと、Tシャツはそれほどヨレヨレではないことだろう。

 ――今日は、お休みなのだろうか?

「農家さんなんですか?」
 なんとなくそう聞いてみた。

 男はほんの少し間をおいて、「ああ」と答える。

「旬の新鮮な野菜が食べられていいですね」

「それはまあ、特権だろうな」

「ほんのちょっとだけですけど、憧れちゃうんですよね、自給自足の生活」

「確かに、ほんのちょっとならな。実は俺も、ほんのちょっと手伝ってる兼業農家だからさ」
 そう言って男は、クスッと笑った。
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