狼を甘くするためのレシピ〜*
 ちらりと左手の薬指を見たが、指輪はしていない。

 ホームセンターの老婆が乙女になった通り、この男には全身から漂う色気がある。
 仮に結婚はしていないとしても、付き合っている女のひとりやふたりいるだろう。愛嬌のある人懐っこさと、この気さくな感じからしてそれは間違いないだろうが、果たして誘ってよかったのだろうか。

 今更ながら、蘭々は少し不安になった。

 自分から誘ったくせに、揉め事に巻き込まれるのは困ると、我儘なことを考える。

 ――でも。

 歩きながらショーウインドゥに映る自分を見て、心なしか安心した。

 ファッションモデルと飲むのとはわけが違う。
 やぼったくて表情の暗い女と酒を飲んでいたからと言って、自分が恋人や妻だったら問題にするだろうか?

 それに、仮にやきもちを妬かれたとしても、この男なら上手く乗り切るに違いないと思う。

『礼だと言ってご馳走になっただけさ』
 そんな風に笑い飛ばす彼の姿が、目に浮かぶようだった。
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