狼を甘くするためのレシピ〜*
 何しろふたりの間には、誤解されるようなことは何ひとつない。飲みに行くとはいってもたった一度だけなのだから。

 ――でも、もしかすると? 気にしてる?

 店に向かって歩きながら、男は蘭々を振り返ることはなかった。
 何も話しかけてもこない。
 黙って歩くふたりは、同じ方向に行くだけの他人にしか見えないだろう。

 もしかすると、誤解されたくなくて話しかけて来ないのかもしれないな、と思った。

 そんなことをつらつら考えながら五分ほど歩いた時。
 立ち止まった男が振り返って声を出した。

「ここだ」

 なるほど、『焼きとり』という赤い提灯がぶら下がっている。
 店から、油が香ばしく焼ける匂いが漂っていた。

「へえ~、いい感じ」

「腹減った。さあ飲むぞ」

 クスッと笑いながら男のあとにつく。
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