大嫌いの裏側で恋をする

「何が食べたいですか?」と、聞いてくる、その姿を見て。

こいつ知らねぇんだろうなって、思う。
任される仕事ばっかり増えて。
仕事して、コンビニで買った飯あっためて、食って。 それだけで終わる夜なんか。
クソかよってくらいダルかったし。

事務が辞めりゃ俺のせいだし、
奥田とは何かとやり方を比較されて、これもいちいちうるせえなって苛立つ要素だった。

ひたすら面倒ごとを避けてると、課長には『お前が手抜いて仕事してるなんざバレバレだからな』と釘を刺されながら。
それでも適当に力抜いてやり過ごしてた。

そんな俺の目に、お前が。
どんなことにも真正面からぶつかって、避けることなく傷ついて。
そんなお前が、どんな風に映ってきたかなんて、知らねぇんだろ。

お前は俺の前を歩いてて。
照らすように先にいるって。
気の強い声とか、たまに見せる勝ち誇ったような無邪気な笑顔とか。
弱音も、涙も。
全部が、いつの間にかできてた空洞を埋めてくみたいに馴染んでいったこと。

……ほんと、お前凄ぇ女だよ。
おかげで数字は上がるわ、課長や奥田には『ペアの効果だ』とニヤニヤされるわ。
そんな毎日が、嫌じゃないわで。

それだけでも、よかった日々が確かにあったけど。
今は、ダメになったみたいだ。
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