大嫌いの裏側で恋をする

「まあ、その辺は高瀬に任せるとして石川! 」
「は、はい!」
「どっちのミスもたいしたことない!」
「はい!」
「小さなミスは、普段お前をコキ使ってる高瀬が何とかする。 だからお前は、タダで起き上がることだけは、するんじゃねぇぞ!」
「……! はい!」

課長の大きな声につられて私の声も大きくなる。

そうだ、謝るだけじゃなくて。
周りを巻き添えて、すっ転んだ私は。
次に繋げる何かを得て起き上がらなくては。
落ち込んでるだけでは、何も変わらない。

……高瀬さんと仲のいい課長だもん。
私が悲しそうに、すみませんを繰り返して喜ぶ人じゃなかった。

ジッと私を見つめる、課長の細く、けれど力強い瞳。
負けじと、見つめ返す。
ジリジリと、睨み合いっこみたいに。

やがて、鋭い瞳が和らいで。
少しだけトーンを落とした声が聞こえた。

「お前には高瀬と、秋田くん飼い慣らしてもらわんといかんからな、めげてんじゃないぞ」
「……ちょっと、飼い慣らすってなんすか」

不満そうな高瀬さんの声が右横で聞こえて。
内心、吹き出しそうになってると。

ちょいちょい、っと。
課長に指でこっちに来いとジェスチャーされたので数歩前に出てみる。

「なんです……って、ぎゃ!?」

頭に衝撃を感じ、思わず叫ぶ。
そんなものを気にもしない、豪快な声。

「負けん気の強い奴の失敗はいいぞ! 気がつきゃ一人前になっとるからなあ!」

ガシガシ、わしゃわしゃと激しく頭を撫でられる。

わあ、これ。
そうか、課長譲りのわしゃわしゃだったのか。

高瀬さんの手を思い出して、少しだけ口元が緩んでしまったのは。

まだ、誰にも内緒。
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