月がキレイな夜に、きみの一番星になりたい。
 誰しも、そういうことってあるよね。
 私だって無痛症のことを知られたくないから、
普通の人のフリをしてる。


「それならよかったです」


痛い傷を突いてしまわないように、
私は気づかないフリをした。

そのとき、部屋から「蕾、蕾」と声が聞こえてくる。


「なんだ、誰かいるのか?」


 夜斗くんは警戒するように、私の部屋のほうを睨む。
 私は苦笑いをして、夜斗くんの手を握った。


「会わせたい子がいるんだ」


 こっちに来てとばかりにその手を引っぱると、
夜斗くんはとまどいながらついてきてくれる。

 夜斗くんを部屋に招きいれると、私は鳥籠を指差した。


「セキセイインコのモイラ。
すごく頭がよくて、人の言葉を
たくさん覚えてるんだよ」


インコの中でも、おしゃべりだと言われている種類だ。
夜斗くんはインコを見たことがないのか、
もの珍しそう にモイラを凝視している。


「珍しい名前だな」

「モイラはギリシア語で『割りあて』って
いう意味なんだ。人間にとって寿命って、
割りあてられるものだと考えられてたんだって」


 私は読んでいた本で知った、
モイラの意味について語る。


「それにちなんで、人の寿命――運命は、
『割りあて』『紡 つむ ぎ』『断ちきる』
糸の長さに例えられたの」


 私は鳥籠を開けて、モイラを手の甲に乗せた。


「運命の糸を紡ぐ女神様、その長さを測る女神様、
割りあてられた糸を断ちきる女神様……。
こうやって寿命が決まると言われていて、
モイラはいつしか運命の女神を指すようになったみたい」

「じゃあ、こいつには運命って意味があるのか」

「うん」


モイラを見つめながら感心している夜斗くんに、
私はくすっと笑いながらうなずく。

インコを見ながら、
少しだけ顔をほころばす夜斗くんがかわいかったからだ。


「お前はもの知りだな」

「本ばかり読んでるからね」


 部屋に閉じこめられているときは、
本が私の友だちだった。

 会える人は親友と小さい頃から
付き合いのある幼なじみだけ。

 でも、毎日会えるわけじゃない。
 だからひとりのときは心の穴をうめるように
物語の世界に入って、寂しさから目をそらしてきた。
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