mimic
……へ?

い、いや、いやいやいや!

けっこうズカズカ庭まで入ってきたのはそっちだよね? 超不法侵入なんですけど。
それに、一緒に飲もうって誘うつもりは毛頭なかったわけだし!


「ご、誤解ですっ!」
「おっ、威勢がいいね。怒った顔がぐっとくるなぁ」
「……はあ⁉︎」


すでに鼻先は触れ合っていた。


「男とふたりきりだってのに、警戒心のカケラもないね」


だから唇が触れるのだって、容易かった。


「んっ……!」


わたしは酔ってて、相手は日々屋外で自然相手に力仕事をしている男。
敵うわけない。

熱い吐息、汗とお日様の匂い。
植物をいとおしむ手は今、わたしの二の腕をキツく掴み、一方は背中を抱き締めている。


「やっ!」


角度を変え、唇が一瞬離れたけどまたすぐに塞がれた。口のなかに舌が入ってくる。
これまでの緊張が、一気にぷつんと切れたみたいに。膝に力が入らない。

突き放すなんて無理だった。

薄目を開けると相手の肌と、雲の切れ間でおぼろげに光る月が見えた。
三日月は、笑ったときの多野木の目の形とよく似ていた。



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