mimic
「わたしたち、いとこなんで」


虚ろな目で見上げると、多野木さんは「イトコ」復唱した。

唯ちゃんは、事故で亡くなった父の、お兄さんの息子。母も病気で亡くなっているので、今のわたしにとって頼りにしている家族同然だ。


「結婚するの?」
「はい」
「……ふーん」


抑揚なく言って、多野木さんは空になった缶を片手で潰した。


「いとこ同士は鴨の味、って言うしね」
「……はい?」


鴨?
狐と狸、海月に鼠の次は鳥?

眉根を寄せ、詮索する目を向けるわたしに動じる素ぶりなどおくびにも出さず、多野木さんは新たにビールを開ける。


「ただの、戯言です。忘れて」
「ざ、戯言、って……」


初めて聞いた言葉だったので意味は分からなかったけど、なんとなく不愉快な気持ちになる。


「あ、あのっ! 仕事中の唯ちゃんってどんな感じなんですか?」


気を紛らわせるために話題を変えて立ち上がると、足元がふらついた。


「__おっと。」


そばにいた多野木さんがとっさに支えてくれて、もたれかかる体勢になる。


「あ、ごめんなさいわたし、コケるとこしちゃ……」
「小夏ちゃんに、ひとつ忠告」


もう阻むものなどなにもないくらい、距離がぐっと縮まって。


「へ? ちゅ、忠告……?」


至近距離でわたしは、存分に目を細めた多野木さんの唇がクッと曲がるのを見た。


「簡単に、男を部屋にあげちゃダメだよ」
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