mimic
「今起きたの? なんかすげえ焦ってるみたいだけど」


寝癖のついたわたしの肩までの髪を優しく撫でると、片方の目だけを釣り上げるようにアクセントをつけて微笑んだ。


「どうした? 小夏。具合でも悪い?」
「う、うんん! 大丈夫!」


わたしは平静を装って、寄り添った唯ちゃんの肩に頭をのせる。

わたしたちは一回り離れてる。
わたしが生まれたとき、唯ちゃんはもう十二歳の男の子で、それから二十三年間。ずっと憧れてきた。
年上の、親戚のお兄ちゃんにわたしは背伸びして、いつも付き纏ってた。

思春期には特有の照れとかあってちょっと距離を置かれたりもしたけど、そのおかげでわたしたちはやっぱり、お互いに唯一無二の存在だと確信したのだ。

すごく安心する。
唯ちゃんが纏ってる空気が、唯ちゃんの存在そのものが。わたしは決してひとりぼっちじゃないって、温かく思わせてくれる。


「これ、全部ひとりで飲んだの?」


突然の質問に、胸がひんやりした。

〝これ〟が指すものは、テーブルの上の空き缶たち。


「違う違う! 唯ちゃん昨日、狐だか狸だかよくわかんない人うちに寄越したでしょ」
「へ? ああ……庭師? あいつと飲んだの? こんなに」
「だって唯ちゃん、来てくれなかったから……」
「小夏とあいつが、ふたりきりで?」


確かめるように言った唯ちゃんは、わたしの顔を覗き込んだ。


「そう、って言ったら……妬ける?」


だなんてセリフ、気取って聞いてみる。

一瞬だけ眉を微動させた唯ちゃんだったけど、すぐにまた、いつもの柔らかい眼差しに戻っていた。


「そりゃ、まあね。小夏は昔から俺の可愛い妹みたいなもんだし」


肩を抱き寄せられ、胸の奥がきゅんとした。
のと、同時に。
妹、ってとこが気になった。
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