mimic
もっとちゃんと、ひとりの女として見られたいよ。ねえ唯ちゃん。
わたし、奥さんになるんだよ?
いつまでも子ども扱いしないでよ。


「でも俺、あの男のこと信頼してるから。仕事で取引がある式場だしな」
「あ……うん……」


その信頼した仕事関係の男にわたし、強引に唇を奪われたんですけど?

なんてことは、さすがに唯ちゃんに心配かけるから心のなかに仕舞っとくとして。
わたしは溜め息を吐いて気を取り直すと、体ごと唯ちゃんに向き直った。


「ね、それよりあの式場いつ予約する? あそこのチャペルかなり人気だから、早めに予約しなきゃダメって雑誌に載ってたよ」


早く、唯ちゃんと一緒になりたい。


「職場の人たちみんなもあそこで挙式するの楽しみにしてくれてて……」


もうひとりぼっちの、孤独な生活なんてまっぴらだ。

でもそんな風に強く思ったのは、わたしだけだったみたいで。


「ごめん、小夏」


眉を下降させると、唯ちゃんは目を伏せた。


「今うちの会社、大事なときなんだ。販路拡大してて、俺はその責任者なんだ」
「__っそ!」


それは何度も聞いた。
そのせいで延ばし延ばしになってるんだから。

両手をグーにして強く握り締める。


「だから小夏、わがまま言うなよ、な?」


かなしそうな目で唯ちゃんは、わたしを見た。唯ちゃんの瞳のなかで、わたしが揺れている。


「俺にはこの仕事がすべてなんだ」


今のわたしには。いや、これまでもこれからもずっと、わたしには唯ちゃんしかいないのに……。


「おっと、そろそろ行かなくちゃ」


腕時計を確認した唯ちゃんはソファから立ち上がる。
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