mimic
「え⁉︎ も、もう行くの?」
「ん。仕事抜けて様子見に来ただけだから」
「仕事? って今日、日曜日だよ?」


ジャケットを羽織り、玄関に向かいながら唯ちゃんは肩越しに振り向いた。


「ちょっと立て込んでて。遅くまでかかりそうなんだ」
「じゃあ明日は? 会える?」
「明日は……ごめん。朝からずっと会議だ」


たたきで革靴に爪先を入れた唯ちゃんは、渋面を作ってわたしに向き合った。


「しっかり施錠しろよ。じゃあな」


最後に弱ったような笑顔を浮かべ、玄関のドアを閉める。


「……いってらっしゃい……」


消えた背中にわたしは小声で言った。

ああ、頭が痛い。
シャワーを浴びよう。

こめかみを押さえながらバスルームに向かう。歩きながら服を脱ぐ。
洗面台の大きな鏡には、髪をボサボサにさせて、目は腫れてて虚ろな、最低最悪な姿の自分が映った。


「うわあ……」


ひどい顔。
こんな顔で唯ちゃんと話してたなんて、最悪。

薄手のカーディガンを脱ぎ捨てると、キャミも脱いだ。
とっくに癒えた胸の傷が、擦れてちりちり痛むような気がした。




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