mimic
夕方涼しくなるのを待って、わたしは近くの海に散歩に出た。
小さい頃はよく唯ちゃんと一緒に遊んだ浜辺。

高校を卒業して短大に入学した頃、おじいちゃんの病気がわかった。
この先、わたしがひとりきりになるのを案じたおじいちゃんは、小夏を頼む、と口癖のように唯ちゃんに言ってた。

唯ちゃんのご両親は長いこと海外赴任でほとんど会わない。わたしと唯ちゃん、ふたりで力を合わせて生きていくことは、おじいちゃんの望みであり、わたしにとってたったひとつの生きる希望なのだ。


「いい香り……」


夕方の海風は、昼間の湿ってたのもとは違い、潮の香りが澄んでる気がする。
空に浮かぶ月を見上げたとき。


「小夏ちゃん?」


後方から、砂を踏みしめて歩く足音と共に声が聞こえた。
驚いたわたしがはっと振り向くと、夕暮れと夜気との曖昧ななかに、人影が見えた。


「た、狸!」
「多野木、です」


相手はにっこり目を細めると、「散歩?」当たり前のようにわたしの隣りに並んだ。


「あなたに、関係ないです……」


昨日の今日で目を合わせづらい。

俯くと、押し寄せる波が砂の色を変え、サンダルの爪先すれすれで引いた。


「昨日、大丈夫だった?」
「へ⁉︎」


思いのほか、素っ頓狂な声が出てしまった……。
これじゃ昨日のこと、意識してるってバレバレだ。
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