mimic
横から睨みつけるわたしをよそに、余裕っぽく腕を組んだ多野木は柔和に微笑む。


「どうだろ。ほかの男を一回、知ってみるってのは」
「は⁉︎」
「もう小夏ちゃんのなかには、唯彦さんしか入れないのかな」
「な、なに言ってんの?」
「いやほら、世界が狭くなってるから、そんなに唯彦さんに執着してるんじゃない?」
「そんな……っ!」
「だから、一回ほかの男と寝てみたら?」


わたしと唯ちゃんには、体の関係なんてない。そんな安いもんじゃないんだ。

もっと心の奥の、深くて固い絆で繋がれている。

それに……。


「わたしは、本当に好きな人としか、そういうことしないから……っ! ほ、ほかの男なんてまっぴらだよ!」


自分の耳をつんざくくらいの大声で叫ぶ。
なにをこんなに興奮してるんだろうって、自分でも自分がわからなくなるくらい、呼吸が乱れている。


「そか……なんか、ガッカリ」


すると多野木は、いつになく真剣な表情で続けた。


「俺が、立候補したかったのにな。〝ほかの男〟に」


尖った白波が、胸でさざめく。


「試してみない?」


潮騒のなかで、わたしはゆるりと細まる多野木の目を、吸い込まれるようにただ見つめた。
息を飲み、硬直するわたしに多野木はすっと手を伸ばす。
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