mimic
× − × − ×
暦の上では処暑は過ぎたとはいえ、照りつける太陽は容赦なくて、目陰を差さなきゃ歩くこともままならない。
職場からの帰り道に、スーパーに向かって歩いている途中。
小さな女の子が、お母さんに手を引かれてスーパーに入ってゆく。きっと今夜の献立を話し合いながら。
いいなぁ、って思った。
わたしも早く、あんな風になりたい。温かい家庭が欲しい。
ずっと、憧れてた。家族という温もりに。
「暑……」
たしか冷蔵庫に、人参と玉ねぎがあったはず。ひき肉を買ってドライカレーにしようかな。
唯ちゃんも食べに来れるなら、夏野菜たくさん買って大きな鍋で煮込むんだけど……。カボチャは嫌いだからジャガイモを多めに、あとナスを入れて。
『明日は……ごめん。朝からずっと会議だ』
きっと、無理だろうな。
お米はどうしよう。重いし、次の唯ちゃんのお休みの日に買い物に付き合ってもらおう。
わたしは本当に、唯ちゃん中心で生活が回ってるんだな、と改めて思った。
良いか悪いかなんて、もう自分で客観的に判別できないところまで来てる。そうするしか思いつかないのだ。
『いやほら、世界が狭くなってるから、そんなに唯彦さんに執着してるんじゃない?』
正直、当たってる、と思う。
認めたくないけど。
昨日多野木にああ言われて、異様に腹が立ったのは、たぶん、当たってるからだ。
だってわたしたちはふたりで、協力して生きてゆくのは必然。
『俺が、立候補したかったのにな。〝ほかの男〟に』
なに? あの言い方……。
男、っていうかオスじゃん。
あんながっつくみたいなキスしてさ。理性のない、動物みたいじゃん……。
「っ、」
さっきまで唯ちゃんでいっぱいだったのに、あんな不躾な男に心をかき乱されてる。
狐顔の変な男のことなんて忘れよう!
スーパーに近づいてきて、やっと涼しくなる、と思った。今日はなにが安いのかしら。サラダ、スープはどうしようかな。
唯ちゃんが突然来てくれたときのために、好物のトマトスープを作り置きしておこうか、と、努めて楽しく考えていたときだった。
暦の上では処暑は過ぎたとはいえ、照りつける太陽は容赦なくて、目陰を差さなきゃ歩くこともままならない。
職場からの帰り道に、スーパーに向かって歩いている途中。
小さな女の子が、お母さんに手を引かれてスーパーに入ってゆく。きっと今夜の献立を話し合いながら。
いいなぁ、って思った。
わたしも早く、あんな風になりたい。温かい家庭が欲しい。
ずっと、憧れてた。家族という温もりに。
「暑……」
たしか冷蔵庫に、人参と玉ねぎがあったはず。ひき肉を買ってドライカレーにしようかな。
唯ちゃんも食べに来れるなら、夏野菜たくさん買って大きな鍋で煮込むんだけど……。カボチャは嫌いだからジャガイモを多めに、あとナスを入れて。
『明日は……ごめん。朝からずっと会議だ』
きっと、無理だろうな。
お米はどうしよう。重いし、次の唯ちゃんのお休みの日に買い物に付き合ってもらおう。
わたしは本当に、唯ちゃん中心で生活が回ってるんだな、と改めて思った。
良いか悪いかなんて、もう自分で客観的に判別できないところまで来てる。そうするしか思いつかないのだ。
『いやほら、世界が狭くなってるから、そんなに唯彦さんに執着してるんじゃない?』
正直、当たってる、と思う。
認めたくないけど。
昨日多野木にああ言われて、異様に腹が立ったのは、たぶん、当たってるからだ。
だってわたしたちはふたりで、協力して生きてゆくのは必然。
『俺が、立候補したかったのにな。〝ほかの男〟に』
なに? あの言い方……。
男、っていうかオスじゃん。
あんながっつくみたいなキスしてさ。理性のない、動物みたいじゃん……。
「っ、」
さっきまで唯ちゃんでいっぱいだったのに、あんな不躾な男に心をかき乱されてる。
狐顔の変な男のことなんて忘れよう!
スーパーに近づいてきて、やっと涼しくなる、と思った。今日はなにが安いのかしら。サラダ、スープはどうしようかな。
唯ちゃんが突然来てくれたときのために、好物のトマトスープを作り置きしておこうか、と、努めて楽しく考えていたときだった。