mimic
信じられない。
街中で堂々と。映画のワンシーンでも気取ってるつもり?

手のひらに汗が滲む。
ギュッと強く握りすぎて、もう一生剥がれないんじゃないかと思う。

やがて信号は青になり、人の群れは一斉に足を進める。そのなかには唯ちゃんたちの姿もあった。


「……っ!」


なに?

なにが起きてるの……?

どういうことか、まったくもって理解できないんだけど。
すれ違ったのに、唯ちゃんはわたしを一瞥もせずに、通り過ぎた。


「ゆい、ちゃん……?」


瞬きを忘れ、両目を見開いたまま放心状態。
すぐさま追いかけて、問いただすことなんてできない。こんなに堂々と無視されたら。

足が動かない。


『ごめん、小夏』


浮気してたの?
わたし、捨てられたの?


『ごめん、小夏』


あの女は誰?
わたしとはもう、一緒にいてくれないの?


「……っ……」


許せない。

許せないよ、唯ちゃん……。

小刻みに息を吐き、震える肩を上下させる。ぎこちない深呼吸をして、わたしは歩き出した。唯ちゃんたちを追って。

けど時間差があったから、もちろん見失う。立ち尽くしていても仕方ないので、わたしは唯ちゃんの会社が入っているビルに向かった。
額や背中、全身に滴る汗が、肌を伝って地面に落ちる。

息を切らしてビルの前に着き、社員たちが行き交うロビーを受付に向かっていたときだった。
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